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無事に年下ガールと合流した僕は母と会うこともなく家に着いた。
部屋に入ると年下ガールはいろんなところを観察している。
ただクラブで出会っただけの男の家を夜遅くに訪ねているのだ。
当然の行動だろう。
年下ガールはひと通り部屋を確認するとソファーに腰掛けた。
続けて僕も隣に座る。
さぁ、楽しい時間の始まりだ。
初めての二人っきりの空間。
いくらメールのやり取りをしていたと言ってもお互い緊張しているのが伝わる。
その緊張をほぐすかのように僕は喋った。
いつも以上に喋っていたと思う。
そしてそれを聞いている年下ガールはよく笑った。
笑っている年下ガールを見ているとあらためて、とってもいい子なのだろうと実感した。
他愛もない会話をダラダラとしていると時間はあっという間に過ぎていった。
緊張もほぐれて少し冷静になってきたとき、急に睡魔に襲われた。
そうだ。僕は昨日夜更かしだったし今日は早起きだった。そりゃ眠たくなるはずだ。
これは勝負を急がないといけないな。
伝家の宝刀!ブラックライト!
ただ楽しく会話をするのが僕の目的ではない。
僕には時間がないのだ。
もしかすると今後、年下ガールと会う時間がつくれないかもしれない。
今日で最後になってしまうかもしれない。
そう自分に言い聞かせて勝負に出る。
僕の部屋にはブラックライトがあった。
天井には星空が広がっていて、壁にはブラックライトに反応するクリスチャン・ラッセンの絵がある。
今振り返ると恥ずかしいが、当時はそれがイケてると思っていた。
僕はこのブラックライトを利用してこの部屋で何人の女の子を抱いただろうか。
そして年下ガールもその中の1人になるだろうか。
僕は年下ガールに言った。
「この絵って電気消すと光るんだよ」
年下ガールもまた、これまでの女の子と同じ反応をした。
「もしかして天井の星も光るの?」
「もちろん」
「えぇー見てみたい」
勝った…
この流れで抱けなかったことは今まで一度もない。
年下ガールは僕のルーティーンに完全にハマったのだ。
そのあとの時間は完全に僕の支配下にあった。
すべてのルーティーンをこなし僕はゴールした。
盲点のX-girl
まったりとイチャイチャしてたら眠くなってきた。
そうだ、僕は睡眠不足だった。
年下ガールとの再会に備えて着飾っていた服がベッドのそばに散らかっている。
もう勝負は終わった。
タンスはベッドのすぐそばにある。
僕は起き上がると部屋着を取るためにタンスを開けた。
いつもの慣れた行動だ。
部屋着を探してると年下ガールが声を発した。
「ねぇ!」
気付かなかったが、どうも僕の行動をずっと目で追っていたようだ。
「なに?」
年下ガールは言った…
「なんでX-girlのTシャツ持ってるの?」
僕は当時ストリート系ファッションブランドを好んで着ていた。
お金が入ると全て洋服に使ってしまっていたぐらいだ。
常にお金がないのもそのためである。
僕と付き合いだして彼女のファッションも変わった。
僕に合わせるように彼女もまたストリート系のファッションをしていた。
そう…年下ガールが見たX-girlのTシャツは彼女のものである。
しまった。
確かに部屋は掃除していないが、彼女の持ち物は全て隠したつもりだった。
やはり男という生き物は詰めが甘いのだろうか。
とりあえずどうにかやり過ごさないといけない。
焦っていた僕だが、あるデニムが視界に入った。
X-girlのデニムだ。
しかしこれは彼女のではなく僕のものだ。
彼女と買い物に行った時にたまたまメンズのデニムが売られていた。
彼女がX-girlでお揃いにしようと言い出し買ったものだった。
僕は年下ガールに言った。
「オレX-girl好きなんだよね。ほら!デニムも持ってるよ。Tシャツはレディースだけどかわいかったから買ったんだよね」
信じてくれるか…
「そうなんだ。私も好きだよ。かわいいね。着てみてよ」
僕は浮気相手の前で彼女のTシャツを着ることになった。
まぁそんなことはどうでもいい。
上手くごまかせたみたいだからな。
それから部屋着に着替えてまたイチャつく。
これは二回戦か?と思っていたのだが気付いたら僕は寝ていた。
限界だったみたいだ。
これほど1分間に感謝したことはない
目が覚めると年下ガールはまだ眠っていた。
寝顔がとてもかわいかった。
僕は起き上がると日課である寝起きのタバコを吸い始めた。
タバコを吸いながら携帯を見た。
そこに表示されていたのは
10:10
頭の中が真っ白になった。
彼女は10時に帰ってくると言っていた。
携帯には着信がない。
ということはまだ僕の家に着いてはいないのだろう。
だがもしかするとあと数秒で来るかもしれない。
吸い始めたばかりのタバコを消し、年下ガールを起こす。
「ねぇ起きて!起きて!」
年下ガールは笑顔で
「おはよう」
と言ってきた。
僕は思いつく限りのウソを並べた。
「さっき母が来て、親戚のおじさんが亡くなったって。だから今から行かないと行けなくなった。母がまたすぐ来るから今日は帰ってもらえない?」
年下ガールを急かして着替えさせた。
時間にして5分もなかったのではないだろうか。
最後にお別れのキスをして年下ガールを玄関で見送った。
よかった…間に合った…
僕は落ち着こうと部屋に戻ってタバコをくわえた。
ライターを持ち火を点けようとしたその時、携帯が鳴った。
彼女からだ。
「もしもし?今家の前にいるよ」
僕は玄関に向かった。
ドアを開けると彼女が抱きついてきた。
「ただいま♡寂しかった?笑」
わずか1分後の出来事である。
年下ガールの歩く方向によっては彼女とすれ違っているかもしれない。
いや。もしかすると玄関でバッタリなんてこともあり得た。
このときほど1分間に感謝したことはない。
そしてこのときほど夜更かしを後悔したこともない。
ドキドキしながらも彼女を部屋に招き入れ、僕はまたいつもと同じ日常に戻った。
オレには彼女がいるんだ
結局彼女にはバレなかった。
そして年下ガールにも不審に思われてはいないみたいだ。
あれだけ危ない状況になったにもかかわらず、僕の年下ガールへの気持ちは大きくなっていった。
また会いたい…
その願いはすぐに叶うことになる。
彼女がまた家を空ける機会があった。
もちろん年下ガールに連絡し、そのタイミングでまた家に呼んだ。
やっぱり最高の女だった。
僕は完全に年下ガールに恋をしていた。
そして年下ガールも気持ちは同じだろう。
しかしこの状況がずっと続くとは思えない。
こういう状態が続くと必ずその関係性を確認したがるものだ。
僕がもっとも恐れていることは年下ガールに告白されること。
告白されても付き合えない。
そう。僕には彼女がいるんだ。
告白を断ることは別れを意味する。
それなら彼女と別れればいいと思うだろうが、そうはいかなかった。
もちろん簡単に別れてくれないというのはあるが、それ以上に問題なのは僕が彼女に依存していたことだ。
僕はお金が入ると全て洋服に使ってしまうような男だった。
そうした洋服で着飾る理由はなんなのか。
自己満足という部分は少なからずあるが、一番はやっぱりモテたいのである。
だが肝心のデート代がない。本末転倒だ。
しかしこんな金のない男を
「いいよ。シュートがカッコよくなるならいいじゃん。シュートがいればそれだけでいいよ。デート代ぐらい私が出すし」
と言ってくれるような彼女だった。そこに僕は依存していたのだ。
本当に好きなのは年下ガールだが、彼女とも別れたくない。
なにより年下ガールとの恋を終わらせたくない。
では年下ガールからのアクションがあるまでを楽しめばいいのか?
僕はどうすればいいのだろうか。
悩んだ結果、ある結論が出た。
そして僕は年下ガールに言った…
「オレには彼女がいるんだ」
つづく

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